神田三河町、半七の家。ここは茶の間で、小綺麗に片附けられ、拭き込んだ長火鉢や、燈明のかがやく神棚などがある。庭には小さい池がある。壁には子分等の名前をかきたる紙を貼り附け、それにめいめいの十手がかけてある。次の間の正面は障子、その外に入口の格子がある。 (第一幕より六日目の朝。子分の亀吉が表を掃いている。向うより半七の妹おくめが先に立っていず。おくめは神田の明神下に住む常磐津の師匠で、文字房という若い女。おくめのあとより三十七八歳の女が附いて来る。これはおなじ師匠で、下谷に住む文字清という女、色は蒼ざめ、眼は血走って、よほど取り乱したていである。) おくめ 亀さん、お早う。 亀吉 やあ、明神下のお師匠さん。早いね。 おくめ かせぎ人は違うのさ。(笑う。) 亀吉 まったくだ。まあ、おはいんなせえ。(云いながら文字清をじろじろ見る。) おくめ 兄さんは家にいるの。 亀吉 おかみさんは朝まいりに出かけたが、親分はいますよ。なに、もうとうに飯を食って、顔を洗って起きているのさ。 おくめ おまえさんの云うことは逆さまだねえ。まあ、なにしろ御免なさいよ。 亀吉 さあ、さあ、通んなせえ。(格子の内に入りて呼ぶ。)おい、おい、親分。明神下のお師匠さんが来ましたぜ。 おくめ (文字清をみかえる。)さあ、遠慮なしにおはいんなさいよ。 文字清 はい。 業務用エアコン 岐阜yononakaさんのまとめ - NAVERまとめ