「おれのいうことが聞えないらしい。はてさて、こまったものだ」  と、わざとらしくいって、 「ふん、さっきは貴様のおかげで、もうすこしで古錨をかついだまま亡霊になりはてるところだった。運よくケレンコ閣下が通りかからなければ、すくなくとも今ごろは、冷たい海底にごろ寝の最中だったろう」  リーロフ大佐は、そういって、太刀川をにらみつけると、コップ酒を、うまそうにごくりとのんだ。 「おい、なんとかいえ。おればかりにしゃべらせないで。いや、待て待て。その兜をぬがせてやろう。どんな顔をしているかな」  リーロフ大佐は、コップを水兵に渡して、太刀川の方へ、すりよってきた。その手に、太いスパナー(鉄の螺旋まわし)が握られていた。  太刀川は、それでも無言で、つっ立っている。 「おい、水兵ども。おれの潜水服をぬがせてしまえ」  そういうと、水兵たちは、どっと太刀川にとびかかって潜水服をぬがせた。  兜の下から青白くこわばった太刀川の顔があらわれた。 「あっはっはっは。こわい顔をしているな。おい、太刀川。さっきから、こうなるのを待っていたんだ。積り重る恨のほどを、今、思い知らせてやるぞ」  リーロフ大佐は、酔った勢いも手つだって、鋼鉄製のスパナーを、目よりも高くふりあげた。  たくましい水兵たちは、太刀川をおさえつけて、さあ、やりなさいといわんばかりに、リーロフの方へつきだした。