寒い冬が過ぎて、春になると、ほりばたの柳が芽をふきました。そして、桜の花が美しく咲きました。このころが、都もいちばんにぎやかな時分とみえて、去年の秋以来見なかった景気でございました。  うかうかとしているうちに、春も過ぎてしまいました。子供らがそれでも隠れてこのほりにときどき釣りなどにやってくる夏となりました。いままで、かもめはなんの不足もなく、また考えることもなく暮らしてきましたが、このころからようやく考えはじめました。それは、ほりの水の中にすんでいたかもめは、ふたたび青い、青い、海が恋しくなったからです。風が強く吹いて、波が岩角に白く、雪となってはね上がり、地平線が黒くうねうねとして見える海が恋しくなりました。  かもめは、北の方の故郷に帰ろうと心にきめました。そして、その名残にこの街の中の光景をできるだけよく見ておこうと思いました。ある太陽の輝く、よく晴れた日の午前のことでありました。白いかもめは、都の空を一まわりいたしました。すると、大きな木のこんもりとした社の境内を下にながめました。子供らが豆を買って、地面の上に群がっているはとに投げやっていました。山形 歯科堪忍袋の緒が切れる