北方の海は銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死んだ魚の眼のようにどんよりと曇って、毎日雪が降っていました。  一疋の親の海豹が、氷山のいただきにうずくまって、ぼんやりとあたりを見まわしていました。その海豹は、やさしい心を持った海豹でありました。秋のはじめに、どこへか姿の見えなくなった自分のいとしい子供のことを忘れずに、こうして、毎日あたりを見まわしているのであります。 「どこへ行ったものだろう……今日も、まだ姿は見えない。」  海豹はこう思っていたのでありました。寒い風は、しきりなしに吹いていました。子供を失った海豹は、何を見ても悲しくてなりませんでした。その時分は、青かった海の色が、いま銀色になっているのを見ても、また、体に降りかかる白雪を見ても、悲しみの心をそそったのであります。  風は、ひゅう、ひゅうと音を立てて吹いていました。海豹はこの風に向かっても、訴えずにはいられなかったのです。 「どこかで、私のかわいい子供の姿をお見になりませんでしたか。」と、あわれな海豹は、声を曇らしてたずねました。  いままで、傍若無人に吹いていた暴風は、こう海豹に問いかけられると、ちょっとその叫びをとめました。船橋 歯医者明日に向かってつぶやく