「何者じゃ。退け、退け。」 その途端に、低い叫び声が小坂部の口を衝いて出た。 「あ、眇目の男……。」 これにおどろかされた采女は、梟のような眼をして暗いなかを透かして視ると、星明かりに窺われた彼の姿は、たしかに異国の風俗であるらしく思われた。時が時、場所が場所であるので、采女も思わずぎょっとして、すぐに太刀に手をかけて立ち停まった。 「おのれ、退け。邪魔するな。」 すわといわば容赦せぬという気勢を示したが、相手はびくともしないらしかった。彼は暗い足もとにひざまずいてささやいた。 「館へ戻られてはお身達のためにならぬ。引っ返されい。」 「引っ返してどこへ……。」と、小坂部はひと足すすみ出て訊いた。 「わたくしが御案内申しまする。われらの神の住むところへ……。」 「や、異国か。」と、采女は再び彼を睨めた。「但しは我々をあざむいて、中国九州の敵どもへ人質に渡そうとか。」
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