私は、氏の肩を、ぽんと叩いた。 するとロッセ氏は、とつぜん吾れにかえったらしく、ふーっと、鯨のようにふかい溜息をついた。そして私に噛りついたものである。 「ロッセ君、しっかりしたまえ」 「見ました、たしかに見ました。しかし、僕は気が変になったのではないだろうか。大きなまっ黒な砲弾が、通行人のように、落着きはらって、向うへいったのを見たんだからね」 「それは、私も見た」 「砲弾が、ものをいったでしょう。あの声は、たしかに金博士の声だった。金博士が、砲弾に化けて通ったんだろうか。わが印度では、聖者が、一団の鬼火に化けて空を飛んだという伝説はあるが、人間が砲弾になるなんて……」 「ほう、なるほど。あの声は、金博士の声に似ていた。それは本当だ」 私は、ロッセ氏には答えず、思わず自分の膝を叩いた。
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