「おう、クイクイの神だ!」 「クイクイの神よ。われにつきまとう悪霊をはらいたまえ」  ミンミン島の原地人たちは、てんでに口のなかでつぶやきながら、クイクイの神にむかって、平つくばって礼をするのだった。  ロップ島の原地人たちは、目をぱちぱちして、この有様を見まもっている。  クイクイの神は、ゆったりゆったりと、広間の中へすすんでいった。頭の毛をぼうぼうと生やし、その頬には、まっ黒なひげをもじゃもじゃとのばしている。へんてこな神さまだ。  それもそのはずで、じつはこのクイクイの神は、日本人なのである。神さまをとらえて、いきなりこれが日本人だといっても、だれもほんとうにしないかもしれないが、この神さまは、その名を、三浦須美吉という日本人なのだ。  三浦須美吉といえば、あたまのいい読者諸君は、きっとおぼえているであろう。原大佐が太刀川青年に話した、あの太平洋上で、大海魔に出あったという第九平磯丸の若き漁夫三浦スミ吉のことである。

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