半七に指図されて、幸次郎は路ばたの魚屋へ立ち寄った。店さきで盤台を洗っている女房に話しかけて、錺屋の噂を聞き出すと、果たして彼女は口軽にいろいろのことをしゃべった。錺屋の増蔵は三十二三で、去年の春に女房に死に別れ、今では小僧と二人暮らしの男世帯である。腕はなかなかにいい職人であるが、女房をなくしてから道楽を始めて、諸方に義理の悪い借金が出来たらしいという。それで大抵の見当も付いたので、二人は錺屋へたずねて行くと、小僧がぼんやりと店に坐っていて、親方は二階に寝ていると答えた。 呼びおろされて出て来た増蔵はほろよい機嫌であったが、これは山出しのお由とちがって、江戸生え抜きの職人であるだけに、半七らが唯の人でないことに早くも気がついたらしく、俄かに形をあらためて丁寧に挨拶した。 「わたくしは増蔵でございますが、なんぞ御用でございますか」 「おれは三河町の半七だが、内の者はまだ誰も来ねえかね」 「いえ、どなたも……」と、増蔵は不安らしく相手の顔をみあげた。 「まだここらまでは廻って来ねえか。遅い奴らだな。じゃあ、すぐに御用に取りかかろう。本来ならば番屋へ引っ張って行くのだが、近所の手前もあるだろうから、ここで訊くことにするよ」歯科 経営クレジットカードでSEO対策をもくろむ
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