太刀川は、声もたてず、しずかに瞼をとじていた。  リーロフが、満身の力をこめて、スパナーをふりおろそうとした時、うしろから、その腕を、むずとつかんだ者がある。 「あ、誰だ。……」  リーロフは、まっ赤になってどなった。 「リーロフ。なにをばかなまねをする。わしのつれてきた珍客を、お前は、どうするつもりだ」  司令官ケレンコだった。  ケレンコは、奥へいって、艦長から報告をきくと、すぐ引返して来たのだ。 「はなしてください、ケレンコ司令官。この太刀川こそ、わが海底要塞にとって、たたき殺してもあきたりない人物じゃないですか」 「そんなことは、よく知っているよ。しかしお前は、あんがい頭が悪いね。太刀川と知りつつ、海底要塞を案内したり、恐竜型潜水艦の威力を見せてやったりしたのは、一たい何のためか、それぐらいのことがわからないで、副司令の大役がつとまるか」  ケレンコは、リーロフを小っぴどくとっちめた。だが、リーロフはひるまなかった。 「でも、ケレンコ閣下、太刀川みたいなあぶない奴は、早く殺しておかないとあとで、とんだことになりますぜ」