「なんの、あざむくことではござらぬ。ともかくわたくしの御案内する方へ……。」  小坂部のそばへ近寄ろうとする彼を、采女はあわてて押しのけた。 「ええ、ならぬ。おのれ執念く付きまつわると命がないと思え。」  いかに美しく、やさしげに見えても、采女は坂東武者の血をうけた其の時代の若い武士である。暗夜に自分達のゆく手をさえぎって、自分の主人の息女――しかも自分の恋人をどこへか誘って行こうとする。この怪しい異国の男に対して、なんの遠慮も容赦もなかった。彼はその男を手あらく突き退けて、小坂部の手をとってふた足三足あゆみ出すと、眇目の男はまた追いすがって来て、小坂部の袂を掴もうとした。采女はいよいよ焦れて彼の腕を強く捻じあげた。 「異国の奴とて命は二つあるまいに、いつまでも邪魔して後悔するな。」  言うかと思うと男の痩せたからだはもう大地に投げ付せられていた。それをあとに見捨てて三人は暗い路をまた走った。眇目の男――それがどうして執念く付きまつわるのか、小坂部は言い知れない不安と疑惑とを感じながら、この場合どうすることも出来ないので、かれは采女のなすままにして真っ直ぐに館へ急いだ。眇目の男のほかに、まだ一つの黒い影が途中から彼等のうしろに付き纏って来たことを誰も知らなかった。 千葉 田舎暮らし 房総金の切れ目が縁の切れ目

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