もっとも尾根伝いの一本道とは云っても、数哩ぶっ通しの直線道路ではなく、主として娯楽本位の観光道路だから、直線そのものの美しさも旅行者に倦怠を覚えさせない程度のそれであって到るところに快いスムースなカーブがあり、ジッグザッグがあり、S字型、C字型、U字型等々さまざまの曲線が無限の変化を見せて谷に面し山頂に沿って蜿蜒として走り続ける。 けれどもこの愉快な有料道路も、夜となってはほとんど見晴らしが利かない。わけても今夜のように雲が低くのしかかったむし暑い闇夜には、遠く水平線のあたりにジワジワと湧き出したような微光を背にして夥しい禿山の起伏が黒々と果しもなく続くばかりでどこかこの世ならぬ地獄の山の影絵のよう。その影絵の山の頂を縫うようにして紳士と怪我人を乗せた自動車は、いましも有料道路の真ン中あたりをものに追われるように馳け続けていた。 「そういえば、なんだか見たことのある自動車だと思いましたよ」
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