恰度これから午後にかけて干潮時と見え、艶のある引潮の小波が、静かな音を立てて岩の上を渫っていた。  キャプテン深谷氏のヨット、白鮫号は、まだ檣柱も帆布も取りつけたままで、船小屋の横の黒い岩の上に横たえてあった。最新式のマルコニー・スループ型で、全長約二十呎、檣柱も船体も全部白塗りのスマートな三人乗りだ。紅と白の派手なだんだら縞を染め出した大檣帆の裾は長い檣柱の後側から飛び出したトラベラーを滑って、恰度カーテンを拡げたように展ぜられ、船首の三角帆と風流に対して同じ角度を保たせながらロープで止められたままになっている。舵は浮嚢を縛りつけたロープで左寄り十度程の処へ固定され、緑色の海草が、舵板の蝶番へ少しばかり絡みついていた。  東屋氏はロープの端の浮嚢を指差しながら下男に訊ねた。 「御主人の屍体はこの浮嚢へ通されて船尾に結びつけてあったんですね?」 「ええ、そうです」  下男が答えた。  東屋氏は頷きながら、 「きっと、鱶に片附けさすつもりだったんだな……ところで貴方は、昨夜御主人のお供をしなかったのですね?」 「はい、いつでもキャプテンのお召しがない限り、お供はしないことになっております」  この物堅いハッキリした下男の答は、ひどく私を喜ばした。東屋氏はなおも続ける。 不用品回収なら横浜のスマイルファーストクレジットカードでSEO対策の威力