帆村は兎のように小屋の中にとびこんだ。懐中電燈が、電光のように揺れた。 『おお、しめた。あったあった。これだ』 帆村は大声で叫ぶなり、一つの硝子壜をつまみあげた。 『なんだ、それは』 『いや、この中にホスゲンが入っていたんだ。この壜は小屋の隅に、横たおしになっていた。その壜の中は、向うの空気窓の方に向いていた』 『でも、ここは小屋の中だぜ。ホスゲン瓦斯が発生しても、まさか小屋を出てから向うの空気窓にとどくかしら』 『大丈夫、とどくさ』と帆村は自信ありげに返事をした。『ホスゲンは空気の三倍半も重い瓦斯だ。壜の中から小屋の中に流れだすと、床を匍うよ。ところが床下が、ほらこんなにすいている。すると必然的に、屋上に流れ出すじゃないか。しかもその前に、待っていましたとばかり壁で囲まれた空気窓がある』
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