「三軒茶屋は、まだでしょうか」 源一は、とちゅうでオート三輪車をとどめて、道ばたにぐったりなって休んでいる大人に声をかけた。 「三軒茶屋だって、三軒茶屋はもう通りすぎたよ。ここは中里だよ」 「へえッ通りすぎましたか」源一のおぼえている三軒茶屋は、大きな建物のならんだにぎやかな町だったが、それも焼けてしまって、ぺちゃんこの灰の原っぱになったため、通りすぎたのに気がつかなかったらしい。「多摩川へ行くのは、こっちですかね」 「多摩川だね、多摩川なら、これをずんずん行けば一本道で二子の大橋へ出るよ」 「ありがとう」 「買出し行くんかね、あっちは高いことをいって、なかなか売ってくれないよ」 「そうですか、困りますね」 電車の姿のない電車道の上を源一は車をすっとばして行った。やっぱり焼けているけれど、ぽつんぽつんと所々に焼跡があるだけで大部分の町が残っていた。源一はそれに気がつくと、なんだか、救われたように急に胸がひろがった。 「ほッ、多摩川だ」
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