うなぎを食うよりも、話のつづきを聞く方が大事なので、わたしは誘いかけるように又訊きました。 「そうすると、それもやっぱり神経のせいでしょうか。」 「さあ。」と、山岸は低い溜息を洩らしました。「こうなると、わたしも少し考えさせられましたよ。実は今まで郷里の方に対して、受験の成績は毎回報告していましたが、髪の白い女のことなぞはいっさい秘密にしていました。そんなことを言ってやったところで、誰も信用する筈もなし、落第の申訳にそんな奇怪な事実を捏造したように思われるのも、あまり卑怯らしくって残念だから、どこまでも自分の勉強の足らないことにして置いたのです。ねえ、そうでしょう。わたしの眼にみえるだけで、誰にも判らないことなんだから、いくら本当だと主張したところで信用する者はありますまい。まして自分自身も神経衰弱の祟りと判断しているくらいだから、そんな余計なことを報告してやる必要もないと思って、かたがたその儘にして置いたんですが、三度が三度、同じことが続いて、おなじ結果になるというのは少しおかしいと自分でもやや疑うようになって来た。そこへ郷里の父から手紙が来て、ちょっと帰って来いというんです。父は九州のFという町でやはり弁護士を開業しているんですが、早い子持ちで、廿三の年にわたしを生んだのだから、去年は五十二で、土地の同業者間ではまずいい顔になっている。そのおかげで私もまあこうしてぶらぶらしていられるんですが……。その父も毎々の失敗にすこし呆れたんでしょう。ともかくも一度帰って来いというので、去年の暮から今年の正月にかけて……。それは君も知っているでしょう。それから東京へ帰って来たときに、わたしの様子に何か変ったところがありましたか。」差し歯渇すれども盗泉の水を飲まず
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