吉良《きら》の屋敷跡の松坂町を横に見て、一つ目の橋ぎわへ行き着いて、相生町一丁目のお俊の家をたずねると、それは竹本駒吉という義太夫の女師匠の隣りであると教えてくれた者があった。 「お俊だけに義太夫の師匠の隣りに住んでいるのか。それじゃあ竪川でなくって、堀川だ」と、半七は笑った。  しかも二人は笑っていられなかった。たずねるお俊の家はいつか空家《あきや》になって、かし家の札が斜めに貼られてあった。 「やあ、空店《あきだな》だ」と、松吉は眼を丸くした。 「隣りで訊いてみろ」  松吉は義太夫の師匠の格子をあけて、何か暫く話していたようであったが、やがて忙がしそうに出て来た。 「親分。お俊の家はきのう急に世帯を畳んで、どこへか引っ越してしまったそうです。知らねえ人が来て、諸道具をどしどし片付けて、近所へ挨拶もしねえで立ち去ったので、近所でも不思議に思っていると云うことです。ちっと変ですね」 「引っ越しの時に、お俊は顔を見せねえのか」と、半七は訊いた。 個別指導 竹ノ塚新潟県・福島県の学習塾グループ NSG教育研究会