「いえ、違います。二人組の男の方が、烏啼天駆なんで。こ奴は、すこぶる変った賊でございまして、変った物ばかり盗んで行くのです。建物から一夜のうちに時計台を盗んでいったり、科学博物館から剥製の河馬の首を盗んでいったり、また大いに変ったところでは、恋敵の男から彼の心臓を盗んでいったりいたしました」 「残酷なことをする。憎むべき殺人鬼だな」 「いや、殺人はいたしませぬ」 「しかし恋敵の男から心臓を抜けば彼は死んでしまう」 「ところが奇賊烏啼の堅持する憲法としまして“およそ盗む者は、被害者に代償を支払わざるべからず。掏摸といえども、財布を掏ったらそのポケットにチョコレートでも入れて来るべし”てなことを主張して居りまする奇賊――いや憎むべき大泥坊でございます。そんなわけで、こちらの御盗難の場合においても、代償として別の画をはめていったものでありまして、稀に見る義理堅い――いや、憎みても余りある怪々賊であります」 「なるほど。これは奇々怪々だ」 

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